今日も地球の名物、酸素がおいしいです

プップクプーのプーです 地球には何十年か前に来ました

ある穏やかな夜の涙 うちの駄犬 かわいい駄犬

お久しぶりです。

 

あんまり暑くない夜に、そっと心をもたれて過ごしています。虫たちは息を潜め、星は曇り空にぼやけて広く光る。カーテン越しにアパートから室内灯が消えていくのが見える。

 

穏やかで静かです。周りを見渡しても、問題ない土曜日。今日私が見たものは全て、田舎生活のいつもの風景。底が厚いサンダルを乗り越え足にまとわりつく、よく伸びた雑草。原付バイクから転がり落ちる安物のヘルメットと追いかける太い足。昼間が終わり、心地よい湿気が肌に伝わる。

 

こんばんは美しい夜、私は1人部屋で泣いています。

 

日中は心がソワソワして、普段は思い出さない過去の苦しみや、いつもだったらやり過ごせる出来事がなんだか許せなくて、自分の体の中には心臓があってドクドク血液を送っているという実感を、別にしたくもないのにさせられた。通り過ぎる車の運転手がイヤミなやつに見えた。辛いことばかり思い出す。悲しいことばかりが人生の大半を占め、これからもそうなのだと囁く声を心で聞く。夜の湿気は私を深淵の方においでおいでしている。

 

扱いづらくて吠えぐせのついた頑固なうちの小型犬がこないだ死にました。

あんまり死んでほしくなかったけど死にました。燃やすまで4日もうちにいたので、死体からは花の匂いと死の臭いが混ざった今まで嗅いだことがない生臭い嫌な臭いがしました。性格はさておき、その見た目に対してはかわいいとしか思ったことはなかったけど、少し怖いと思いました。もうこの体をここに残してはおけないことをやっとの思いで悟りました。

 

時間と共に腐っていく犬の死体を見ながら、泣いて、毛をハサミで切り、百均で買ったパウチに突っ込み、机に入れました。本当は死んでないのではないかと思い、何回脈を取っても血液は巡ってなさそうでした。もう私のことを見つめることはないであろう白く曇った瞳を見るのが、嫌で、生きているうちにこんな日が訪れるのが、ずっとずっと怖かったけど、でも、死にました。

 

いつもはうじうじしている私に冷たい視線を送る妹が、落ち込む私を見てかわいそうに思ったのか、死んでから一週間くらいとても優しく接してくれました。その後はもとに戻りました。関係各所に犬が死んだというと辛そうな顔をして3日くらい優しくしてくれました。その後はもとに戻りました。

 

死んだ犬と保冷剤が入れられたクーラーボックスをベッドの横に置き、時々蓋を開けては泣きました。犬をひっくり返してみたら、裏側の顔が潰れてて、着せてある服をめくったら青くなっててとてもショックで泣きました。

この犬は、私と2人でいるときに死にました。きっと私のことが好きだったんだろうと思いました。でも、そういう重い役割はできれば他の人に任せて欲しかったです。

 

うちに犬を押し付けてきた人はなんだかイヤミなやつで、その孫もよく似てイヤミな女の子でした。それでいてうちにきた犬も頑固で底意地が悪い可愛げのない犬でした。自分本位に動く小さい姿を見て、この犬は愛玩犬になる気がないので羊でも追いかけに行かせた方がよかったのではないかと思いました。イヤミな人が韓流スターから取ってつけた名前で呼ぶと、いつも嫌そうにこっちに来ました。お手はすぐ覚えました。それに関してはかわいかったです。

私はさっきまで泣いていたけどもう泣いてません。今はあの犬イヤミなやつだったなと目を細めています。

 

最近、英会話を習得するぞと意気込みまして、元気なおじいさんに一回だけ習いました。そのとき、自分の脳内に英語で話しかけなさいと斬新なことを言われまして、しかもその頭の中の子に名前をつけろと言うのです。提案した名前は却下され、思いついたように死んだ犬の名前を出したら、イイ名前だねと褒められ、いつも脳内の死んだ犬に英語で話しかけないといけなくなりました。

 

英語が覚えられない。

本当は勉強してないからだけど、脳内のおまえに英語で話しかけると日本語でたくさんの感情が浮かんで言葉が出なくなる。晩年、ギョッとするような見た目になっちゃったけど、どうだ、私だけは優しかったでしょう。以前以上に私にべったりになっていた。小さい赤ちゃんだったおまえは、いつしか私より早く大人になり、そして老いて死んだ。自分がかわいいと思っていた生き物の死は初めてで、受け入れがたかった。

 

その体が燃やされたら心が軽くなった。神様はいない。きっと犬は死んだ時点でもうただの死体で燃やされたら骨で、それ以下でもそれ以上でもないのかもしれない。神様を信じない私だけど、仏壇に供えられるほかほかご飯に意味を感じない私だけど、ほかほかご飯は死んだ何かのためだけではなく。生きている人のためにもほかほかしているのだろうとふわっと感じた。

 

歳をとって毛が抜け落ち、その地肌をピッタリ人間にくっつけないと寝れない迷惑な犬。背中で潰さないように気を遣って寝るのは大変だった。でも、もう一回だけそれをさせてくれるなら何でもするよってそんなことを言いたくなるくらい死んだ犬に会いたい。

 

今日も悲しい夜を乗り越えよう。私の心臓に力はまだ残っている。うちの愛玩犬の才能がなかった愛玩犬に、さよなら。